キャリアの「軸」を見つけ直す問いかけ:あなたの働く価値観を仕事にどう活かすか
経験を重ねる中で見失いがちな「働く価値観」
キャリアが10年を超え、一定の経験や役職を得る中で、仕事に対する考え方や感じ方が変化してきたと感じる方もいらっしゃるかもしれません。かつては昇進や収入、スキルの習得が大きなモチベーションだったとしても、それらがある程度満たされたとき、あるいは達成が難しくなってきたと感じるとき、「自分は何のために働いているのだろうか」「本当に大切にしたいことは何なのだろうか」といった問いが頭をよぎることがあります。
日々の業務をこなすことに追われ、外部からの評価や期待に応えようとするうちに、自身の内側にある「働く価値観」が見えにくくなってしまうことは少なくありません。そして、その価値観と現在の仕事との間にズレが生じていることに気づいたとき、漠然とした不安や停滞感、やりがいを見失うといったキャリアの悩みに繋がることがあります。
このような状況で自身のキャリアの方向性を見つけるためには、表面的なスキルや経験だけでなく、自身の根本的な「働く価値観」を見つめ直し、それを仕事にどう結びつけていくかを考えることが重要です。
なぜ今、「働く価値観」を見つめ直す必要があるのか
働く価値観とは、仕事を通じて得たいもの、大切にしたい考え方や状態を指します。例えば、「成長実感」「貢献」「安定」「裁量権」「創造性」「人間関係」「ワークライフバランス」など、人によって様々なものがあります。
キャリアの初期段階では、特定のスキル習得や経験を積むこと自体が価値となることが多いかもしれません。しかし、経験を重ね、市場価値が変化し、ライフステージも移り変わる中で、自身の求める価値観も自然と変化していきます。若い頃は何よりも成長スピードを求めていた方が、経験を積んだ今では他者への貢献や安定をより重視するようになる、といったことは珍しくありません。
この、内側で変化している価値観と、現在の仕事で提供されている価値や期待との間にギャップが生まれたとき、キャリアの「軸」が揺らぎ始めます。このギャップに気づかず、あるいは見て見ぬふりをして働き続けることは、モチベーションの低下やバーンアウトにも繋がりかねません。
自身の「働く価値観」を改めて明確にし、それを現在の仕事や今後のキャリアにどう反映させていくかを考えることは、自分らしいキャリアの軸を再構築し、より充実感を持って働くための重要な一歩となります。
働く価値観を見つけるための「問いかけ」
自身の働く価値観を探求し、明確にするためには、自分自身への「問いかけ」が有効です。過去の経験や現在の状況、そして未来への思いを問い直し、内省を深めることで、自身の核となる価値観が見えてきます。
ここでは、働く価値観を見つけるための具体的な問いかけ例と、それぞれの問いかけがどのような内省に繋がるのかをご紹介します。
問いかけ例1:これまでの仕事で、特に「満たされた」と感じたのは、どのような瞬間でしたか?それはなぜですか?
- この問いかけは、過去のポジティブな経験に焦点を当てることで、自分がどのような状況や成果に対して喜びや充実感を感じるのかを探ります。単に「成功した」ということだけでなく、「なぜそれが嬉しかったのか」を深掘りすることで、その瞬間に満たされていた自身の価値観が見えてきます。「チームで困難を乗り越えた時だった(→人間関係、協調性)」「自分のアイデアが形になった時だった(→創造性、実現)」「顧客から感謝された時だった(→貢献、他者への影響)」など、具体的な理由の中に価値観のヒントが隠されています。
問いかけ例2:仕事を通じて、どのような状態を実現したり、誰にどのような影響を与えたりすることに、最も価値を感じますか?
- この問いかけは、仕事の「目的」や「貢献」といった側面に焦点を当てます。自分が仕事を通じて社会や組織、あるいは特定の誰かにどのような影響を与えたいのか、どのような状態を創り出したいのかを考えることで、自身の働くことの根源的な意義や、貢献したい領域が見えてきます。「後輩の成長をサポートしたい(→育成、支援)」「効率的な仕組みを作りたい(→効率性、改善)」「社会課題の解決に貢献したい(→社会貢献)」など、自身の活動がもたらす結果や影響の中に、大切にしたい価値観があります。
問いかけ例3:もし、お金や評価を気にせず仕事を選べるとしたら、どのような活動に時間を使いたいですか?それはなぜですか?
- この問いかけは、外的な報酬や評価から離れ、純粋な関心や情熱、内的な動機に焦点を当てます。もし制約がないとしたら、自分が自然と惹きつけられる活動は何なのかを考えることで、自身の根源的な興味や、そこから満たされる価値観が見えてきます。「新しい技術をひたすら追求したい(→探究心、専門性)」「人と深く関わり、話を聞きたい(→人間理解、共感)」「ものづくりに没頭したい(→創造性、実現)」など、損得抜きにしてやりたいことの中に、自身の本質的な価値観があります。
問いかけ例4:現在の仕事のどのような側面に、自分の最も大切にしている価値観が活かされていると感じますか?あるいは、活かされていないと感じますか?
- この問いかけは、自己理解を現在の状況に結びつけます。これまでの問いかけで浮かび上がった価値観と、日々の業務内容や役割、組織文化などを比較することで、自身の価値観が現在の環境でどの程度満たされているのか、あるいは満たされていないのかが明確になります。このフィット/ミスフィットの度合いを理解することが、今後のキャリアを考える上での重要な出発点となります。
問いかけ例5:あなたの理想とする「働く状態」とは、どのような状態ですか?そこでは、どのような価値観が満たされていますか?
- この問いかけは、未来の理想像に焦点を当てます。どのような働き方をしたいのか、どのような環境で働きたいのか、どのような感情で仕事に取り組みたいのかといった具体的な状態を想像することで、その状態を構成する要素、すなわち満たされているであろう価値観が見えてきます。これは、今後のキャリアの方向性を定める上での「北極星」のような役割を果たします。
問いかけから得られた気づきを整理する
これらの問いかけを通じて得られた内省は、断片的であったり、曖昧であったりすることもあります。そこで、得られた気づきを整理し、自身の核となる働く価値観を明確にするステップが重要です。
- キーワードを書き出す: 各問いかけに対する答えや、そこから連想される言葉、感情、考えられる価値観の候補などを自由に書き出してみてください。
- 共通するテーマを探す: 書き出したキーワードの中から、繰り返し現れるものや、特に強く惹かれるもの、根源的だと感じられるものを見つけます。
- 核となる価値観を特定する: 共通するテーマをいくつか選び、自身の「働く価値観」として最も重要だと感じるものを絞り込みます。最初は複数あっても構いません。それらの価値観に優先順位をつけてみるのも良いでしょう。
- 価値観を言葉にする: 特定した価値観を、自分にとって最も腹落ちする言葉で表現してみます。例えば、「社会への貢献」「自己成長」「チームとの協働」「知的な探求」「自律性」などです。
このプロセスを通じて、自身の働くことにおける「軸」が少しずつ明確になってくるはずです。
明確になった価値観をキャリアに活かす
自身の働く価値観が明確になったら、次はその価値観を日々の仕事や今後のキャリア形成にどう活かしていくかを考えます。
- 現在の仕事での実践: 明確になった価値観に沿った活動が、現在の仕事の中に少しでもあるかを探し、その割合を増やす方法を考えます。例えば、「貢献」という価値観が重要なら、社内での貢献機会を増やしたり、顧客との関わり方を見直したりすることが考えられます。「自律性」なら、業務の進め方で裁量を得られる部分を探したり、新しい提案を積極的に行ったりすることが考えられます。
- 役割・担当業務の見直し: 自身の価値観が、現在の役割や担当業務と大きくズレている場合、社内での異動や役割変更を検討することも視野に入ります。どのような役割なら価値観を満たせるのか、具体的に考えてみます。
- 学びの方向性: 自身の価値観を実現するために、どのようなスキルや知識が必要かが見えてくることもあります。例えば、「知的な探求」が価値観であれば、特定の専門分野を深く学ぶことに関心が向かうかもしれません。
- 今後のキャリアパス: 転職、独立、副業など、今後のキャリアの選択肢を考える際の重要な判断基準となります。どのような環境であれば、自身の働く価値観を最大限に満たせるのかを軸に、可能性を検討することができます。
問いかけは継続的なプロセス
自身の働く価値観を見つめ直す問いかけは、一度行えば終わりというものではありません。キャリアは常に変化し、自身の価値観もまた変化していく可能性があるからです。定期的にこの問いかけを繰り返し、自分自身の内側にある声に耳を傾ける時間を設けることは、変化の多い時代において、自分らしいキャリアの軸を保ち続けるために非常に有効です。
内なる問いかけを通じて自己理解を深め、自身の働く価値観を明確にすることは、キャリアの迷いや不安を乗り越え、次のステップへと踏み出すための力強い羅針盤となるでしょう。