経験で培った『なんとなく』をキャリアの武器に変える問いかけ
長年の経験に潜む『なんとなく』と向き合う
キャリアを長く重ねてこられた方の中には、特定の状況で「なんとなく、こうなる気がする」と感じたり、「特に深く考えたわけではないけれど、こちらの道を選んで正解だった」という経験をお持ちの方もいらっしゃるのではないでしょうか。あるいは、後輩に仕事を教える際に、「うまく言葉にできないけれど、こういうものだ」と感じる瞬間があるかもしれません。
このような「なんとなく」は、単なる偶然や気まぐれではなく、これまでの豊富な経験によって培われた洞察や判断基準、いわゆる「暗黙知」や「勘」といったものが働く結果です。多くの場面でスムーズな判断を助けてくれますが、一方で、意識化されていないがゆえに、自身の明確な強みとして認識しにくく、他者に説明したり、新しい環境や役割で応用したりするのが難しいという側面もあります。
特に、キャリアの停滞を感じたり、次の方向性に迷いがある場合、この「なんとなく」の中に、自身のキャリアの核となる価値や、新しい可能性を切り拓くヒントが隠されていることがあります。この潜在的な資産を意識化し、キャリアの明確な武器に変えるためには、自分自身への「問いかけ」が有効な手段となります。
『なんとなく』を問いかけで見つめ直す意義
長年培ってきた「なんとなく」を意識的に見つめ直すことは、自身の経験価値を再定義し、キャリアの選択肢を広げることに繋がります。
例えば、特定のプロジェクトで成功した際に「なんとなく、このやり方が最善だと思った」という場合、その「なんとなく」の背後には、過去の類似事例での経験、関連する専門知識、チームメンバーとの関係性における無意識の判断などが複雑に絡み合っている可能性があります。問いかけを通じて、これらの要素を分解し、言語化することで、自身の成功パターンや得意な判断領域を明確にすることができます。
また、「なんとなく、この提案はリスクが高いと感じた」という直感が、後に回避すべき事態を防いだ経験があるかもしれません。この「なんとなくの違和感」の根拠を探ることで、自身のリスク察知能力や、注意すべきポイントといった、経験に裏打ちされた危機管理能力を認識できます。
このように、「なんとなく」を深掘りする問いかけは、自身の隠れた強みを発見し、それを客観的なキャリア資産として認識するための重要なステップとなります。
『なんとなく』をキャリアの武器に変える問いかけ例
ご自身の「なんとなく」に潜むキャリア資産を見つけ出すために、以下の問いかけをご自身の状況に合わせて活用してみてください。問いかけに対し、すぐに答えが出なくても問題ありません。静かに内省する時間を持ち、心に浮かんだことや過去の経験を振り返ってみることが大切です。
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過去に「なんとなく、こちらの方がうまくいく」と感じて選択し、実際に成功した経験はどのようなものか? その選択の背後には、具体的に何があったと考えられるか?
- (この問いかけは、自身の成功を導いた無意識の判断基準や、経験に基づく直感の有効性を探ることに繋がります。)
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特定の状況で「なんとなく違和感がある」「なんだか嫌な予感がする」と感じ、避けたことで良い結果に繋がった経験はあるか? その「なんとなくの違和感」は、具体的にどのような要素から来ていたように思えるか?
- (この問いかけは、自身のリスク察知能力や、経験に基づいた危険回避のパターンを明確にする手助けとなります。)
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後輩や同僚に仕事のコツを教える際に、「これは言葉にするのが難しいけれど、とにかく慣れるとわかる」「見て覚えろとしか言いようがない」と感じるような「暗黙の了解」や「勘所」は何か? それをあえて言葉にするなら、どう表現できるか?
- (この問いかけは、他者への伝達を通じて、自身の暗黙知を言語化し、形式知に変える訓練になります。)
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特定の分野や業務において、「特に意識していないけれど、自然と他の人よりうまくできること」や「特別な努力なしに高い精度で判断できること」はあるか? それは、どのような経験の積み重ねによって身についていると考えられるか?
- (この問いかけは、自身にとって当たり前になりすぎて認識しにくい「隠れた強み」を発見する機会となります。)
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新しい情報や状況に触れた際、「なんとなく、これは重要そうだ」「これは将来的に役立ちそうだ」と感じることはあるか? その「なんとなくの重要性」を感じる根拠は、自身のどのような関心や経験に基づいていると考えられるか?
- (この問いかけは、自身の経験に基づく興味関心や、将来を見通す洞察力といった側面に気づく手助けとなります。)
これらの問いかけを通じて、ご自身の経験の中に潜む「なんとなく」の正体を探り、それが単なる感覚ではなく、確かな経験に裏打ちされた洞察であることを認識してみてください。
得られた気づきを整理し、キャリアに活かす
問いかけへの内省を通じて得られた気づきは、書き出すことでより明確になります。ジャーナリングやマインドマップ、あるいはシンプルな箇条書きでも構いません。どのような状況で、どのような「なんとなく」が働き、どのような結果に繋がったのか、その背景にはどのような経験があったのかを具体的に記述してみてください。
記述した内容を眺めることで、特定のパターンが見えてくることがあります。例えば、「不確実性の高い状況で、リスクを察知する勘が働くことが多い」「複数の情報を瞬時に統合し、最適な判断を下す場面で『なんとなく』が当たる傾向がある」といった、ご自身の得意な判断領域や、経験に基づいたスキルセットが浮かび上がってくるかもしれません。
このように意識化された「なんとなく」、すなわち経験に裏打ちされた洞察やスキルは、あなたのキャリアにとって重要な資産です。これをどのようにキャリアに活かせるか、具体的な行動を考えてみましょう。
- 自己PRへの活用: 面接や社内プレゼンテーションなどで、単なる経験年数だけでなく、「長年培ってきた経験からくる、リスクを未然に防ぐ洞察力が私の強みです」のように、具体的なエピソードを交えながら自身の強みを具体的に語ることができます。
- 新しい役割やプロジェクトへの貢献: 意識化された「なんとなく」が示す得意な領域は、新しいプロジェクトで活かせる可能性を示唆します。例えば、データ分析ではなく「勘」で市場トレンドを捉えるのが得意だと気づいたら、新しいサービス企画の初期段階でその直感を活かす役割を担うことを提案するなどです。
- 部下育成やチームマネジメントへの応用: 言語化できた「なんとなくのコツ」は、後輩への具体的な指導や、チーム全体のスキル向上に役立てることができます。「なんとなく」を経験談として共有することで、形式的なマニュアルだけでは伝えきれない実践的な知恵を伝えることが可能になります。
- キャリアチェンジや新しい挑戦の検討: これまで意識していなかった「なんとなく」に潜むスキルが、異分野や新しい職種で求められる能力と一致する場合、キャリアチェンジの可能性が見えてくることもあります。
まとめ
長年のキャリアで培われた「なんとなく」は、あなたの貴重な経験資産です。この無意識の洞察や判断基準を、自分自身への問いかけを通じて意識化し、言語化することで、自身のキャリアの可能性を再発見することができます。
現在の仕事に飽きを感じたり、次のステップに迷いがある時こそ、自身の内側に目を向け、「なんとなく」の中に隠されたキャリアのヒントを見つけ出してみてはいかがでしょうか。問いかけは、あなたの経験を明確な強みとして捉え直し、次のキャリアへと進むための羅針盤となるでしょう。