過去のキャリアを棚卸しする問いかけ:見過ごしていた強みと成功体験を見出す
キャリアの土台を築く:過去の経験を問いかけで見つめ直す
長年のキャリアを積む中で、現在の仕事に停滞感を感じたり、漠然とした不安から次のキャリアステップに迷いが生じたりすることは少なくありません。経験を重ねるほどに、自分が何を大切にしたいのか、どのような方向へ進むべきかが見えにくくなる場合もあるようです。
未来のキャリアについて考える際、多くの人は「これから何を学ぶべきか」「どんなスキルが必要か」といった外的な情報に目を向けがちです。しかし、実は最も価値ある情報は、これまでの自分自身のキャリア経験の中に隠されています。成功体験や失敗、そこで培われたスキルや価値観は、今後のキャリアを考える上で強固な土台となり、羅針盤となる可能性を秘めています。
漫然と過去を振り返るだけでは、埋もれた価値を見つけ出すことは難しいかもしれません。そこで有効なのが、「問いかけ」による内省です。自分自身に適切な問いを投げかけることで、過去の経験をより深く掘り下げ、見過ごしていた強みや成功の鍵、そして大切にしたい価値観を鮮やかに浮かび上がらせることができます。
なぜキャリアの棚卸しに「問いかけ」が有効なのか
キャリアの棚卸しとは、これまでの職務経歴を単に並べるだけではなく、それぞれの経験を通じて何を得たのか、どのような力が身についたのかを深く探求するプロセスです。この探求において、問いかけは自らの内面にある記憶や感情、思考を引き出す強力なツールとなります。
例えば、単に「これまでの仕事で成功したことは?」と問うだけでは、具体的なエピソードがすぐに思い浮かばないかもしれません。しかし、「最も達成感を感じたプロジェクトは何ですか?その時、あなたは具体的に何をしていましたか?」「その成功は、周囲にどのような影響を与えましたか?」のように具体的に問いを分解していくと、当時の状況や自分の行動、貢献した内容が詳細に思い出されてきます。
問いかけは、過去の出来事を客観的に捉え直し、感情的な側面だけでなく、論理的な学びや自身の強み、価値観として再認識することを助けます。これにより、単なる過去の出来事が、未来のキャリアを考える上での貴重な示唆へと変わっていくのです。
キャリアの棚卸しを深める具体的な問いかけ例
あなたのキャリア経験をより深く理解するために、いくつかのカテゴリに分けて問いかけを実践してみましょう。時間をかけて、一つひとつの問いにじっくりと向き合ってみてください。
1. 成功体験とそこでの貢献に関する問いかけ
- これまでで最も達成感を感じた仕事やプロジェクトは何ですか?その時、あなたは具体的にどのような役割を担い、何に貢献しましたか?
- その成功において、周囲から最も高く評価された点は何でしたか?それはどのような能力や振る舞いによるものでしたか?
- 困難な状況を乗り越えて成功を収めた経験はありますか?その時、どのような課題に直面し、それをどのように解決しましたか?その経験から何を学びましたか?
- 過去の成功体験に共通するあなたの「成功パターン」は何ですか?(例:計画力、巻き込み力、分析力など)
2. 失敗経験とそこからの学びに関する問いかけ
- これまでで最も学びが大きかった失敗は何ですか?その失敗はなぜ起こったと思いますか?
- その失敗から、あなたは具体的に何を学び、次に活かせたことは何ですか?
- もしその状況に戻れるとしたら、あなたは何をどう変えたいですか?その理由は?
- 失敗を乗り越える過程で、自分自身のどのような側面に気づきましたか?
3. 獲得したスキル、知識、強みに関する問いかけ
- これまで仕事を通じて習得したスキルや知識の中で、特に自分の強みだと感じるものは何ですか?それはどのような状況で最も効果を発揮しましたか?
- 意識せずとも自然とできてしまうこと、他の人から「〇〇さんならできる」と頼られることは何ですか?
- あなたの専門性は何ですか?それは現在の市場でどの程度通用すると感じますか?あるいは、どのような分野で応用可能だと思いますか?
- 仕事の経験を通じて、問題解決力、コミュニケーション能力、リーダーシップなど、どのような汎用的な能力が身につきましたか?
4. 価値観、興味、モチベーションに関する問いかけ
- どんな時に仕事に楽しさや面白さを感じましたか?それは具体的にどのような業務や環境でしたか?
- どんな時に、最も自分の仕事に意義ややりがいを感じましたか?それは誰かの役に立った時ですか?新しい価値を創造できた時ですか?
- 逆に、どんな時に不満やストレスを感じましたか?それは何が原因でしたか?(業務内容、人間関係、評価制度など)
- これまで関わった仕事やプロジェクトの中で、特に興味や関心を持ったテーマは何ですか?それは現在の仕事にどう関係していますか?
これらの問いかけはあくまで一例です。あなた自身の経験に合わせて、自由に問いをアレンジしたり、新しい問いを加えてみたりしてください。
問いかけから得られた気づきを整理し、未来へつなげる
問いかけを通じて洗い出された経験や気づきは、ノートに書き出す、マインドマップを作成するなど、目に見える形で整理することをお勧めします。単語や短いフレーズでも構いませんので、問いへの答えや連想される事柄を自由に書き出してみましょう。
書き出した内容を見返すことで、点のようだった個々の経験が、線や面としてつながり始めるのを感じられるはずです。例えば、異なる成功体験に共通する自分の行動パターンや、様々な不満の原因に潜む自身の価値観などが見えてくることがあります。
見出された強み、大切にしたい価値観、興味関心のある分野は、今後のキャリアの方向性を考える上で非常に重要な手がかりとなります。
- 見出した強みを現在の仕事でさらに意識的に活用できないか?
- 大切にしたい価値観に合う働き方や職場環境はどのようなものか?
- 興味関心のある分野について、さらに学びを深める機会は得られないか?(社内外の研修、資格取得、副業など)
- これらの要素を満たすために、現在のポジション以外にどのような選択肢があり得るか?(異動、昇進、転職、独立など)
キャリアの棚卸しは、自分自身を深く理解するための旅です。この旅で見つけた宝物は、きっとあなたの未来を照らす力となるでしょう。
まとめ
経験を積んだビジネスパーソンがキャリアの岐路に立った時、過去の経験を棚卸しすることは、自身の強みや価値観を再認識し、未来への道筋を見出すための重要なステップです。そして、この棚卸しを効果的に行うには、自分自身への「問いかけ」が非常に有効です。
今回ご紹介した問いかけを参考に、ぜひあなたのこれまでのキャリアをじっくりと振り返ってみてください。問いかけを通じて見出されたあなたの見過ごしていた強みや成功体験、そして大切にしたい価値観は、今後のキャリアをデザインしていく上での確かな自信と指針を与えてくれるはずです。
キャリアの棚卸しは一度行えば終わりではありません。定期的に問いかけを実践し、自身の変化や成長に合わせてキャリアの土台をアップデートしていくことで、より納得感のあるキャリアを歩んでいくことができるでしょう。